健康保険を使った方がお得
病院の受付についたら、最初に治療費の支払い方法を決めることになります。治療費は最終的には加害者の保険会社が負担します。
支払い方法には2種類あります。
加害者の保険会社に全て支払ってもらう方法が1つ、もう1つはあなたが健康保険を使って一旦自費で支払い、あとで保険会社からあなたに払い戻されるという方法。
どちらの方法でもかまいません。自由に選ぶことができます。
「だったらわざわざ自分が払って後で払い戻しを受けるよりも、最初から保険会社に払ってもらった方がいいんじゃない?」
と思うでしょう。実はここがポイントなのですが、そうではありません。
あなたが健康保険を使って直接病院に支払った方が最終的にもらえる保険金が増えます。
それも何十万円か増えることが多いのです。
(仕事中の交通事故には健康保険は使えませんが、労災保険は使えます)
保険診療だともらえる保険金が増える理由
ではなぜ、健康保険を使った方がお得になるのでしょうか?
そもそも治療費が安かろうが高かろうが全額加害者の保険会社が払うのですから関係ないのでは?と思いたくなりますが、実は次のような保険会社の内情があるのです。
保険会社は「これくらいの事故だったら、まぁどんなに出せたとしてもこれくらいの金額が限界」というように、最初からある程度出せる金額が決まっています。
つまり、保険診療で通っていた場合は治療費がグッと安く抑えられますからその分を多めにもらえる可能性が高くなるわけです。自由診療で通ってしまっていた場合はその逆で、もらえる保険金が少なくなってしまいます。
「むち打ちで通院期間は約半年、後遺障害14級でサラリーマンの月収35万円の人なら・・・600万円が限度かな」
なんて保険会社が考えていたとしましょう。そうすると保険診療だった場合は
「治療費は100万円か・・・じゃあ500万円までなら払おうかな」
となるのに対し、自由診療だった場合は
「治療費は200万円か・・・じゃあ400万円までなら払おうかな」
となるわけです。
もちろん実際にはこんな単純な話でもないのですが、しかしほとんどの保険会社はこのような考えが根底にあります。
示談時にこの部分の差はいくらか出てくることでしょう。
過失割合がある場合、健康保険を使うとさらに得をする
さらに過失割合があなたにあった場合は、もっと変わってきます。
以下の表は、もしもあなたに過失割合が20%あったとして、自由診療と保険診療との違いを具体的に数字で表したものです。
損害項目 | 健康保険を使わない場合(自由診療) | 健康保険を使った場合(保険診療) | 差額 |
---|---|---|---|
治療費 | 200万円 | 30万円 | 170万円 |
休業損害 | 50万円 | 50万円 | 0円 |
慰謝料 | 70万円 | 70万円 | 0円 |
合計 | 320万円 | 150万円 | 170万円 |
↓合計から過失割合を引くと・・・
損害項目 | 健康保険を使わない場合(自由診療) | 健康保険を使った場合(保険診療) | 差額 |
---|---|---|---|
過失割合(20%) 被害者負担分 | -64万円 | -30万円 | 34万円 |
損害賠償額合計 | 256万円 | 120万円 | 136万円 |
↓治療費だけは病院に払うので、その分を引くと・・・
損害項目 | 健康保険を使わない場合(自由診療) | 健康保険を使った場合(保険診療) | 差額 |
---|---|---|---|
治療費を病院へ支払う | -200万円 | -30万円 | 170万円 |
受取金額合計 | 56万円 | 90万円 | 34万円 |
一見すると自由診療では損害賠償額が大きくなっていてお得感がありますが、受取金額合計に着目して下さい。
健康保険を使った場合の方が金額が多いのです。
ちょっとだけ複雑なので、わかりにくいかも知れませんが、健康保険を使うと自己負担分の治療費30万円に過失割合の20%がかかってくるのに対し、健康保険を使わなかった場合はもろに治療費200万円に過失割合の20%がかかってくるので、その分の差が出てきてしまう、というわけなんです。
この辺の理屈がよくわからなかったとしても、
「健康保険を使った方が、使わない時と比べて数十万円も得をする」
と覚えておいてもらえれば大丈夫です。
補足ですが健康保険を使った場合、健康保険は3割負担ですから100万円の治療費のうち30万円をあなたが負担し、残りの70万円は病院が健康保険に請求します。
健康保険は保険会社に請求し、最終的には病院に支払われます。
そのため、ここでは残りの70万円分に関して特に気にする必要はありません。
自由診療と保険診療との違いの説明は以上です。
余談ですが、健康保険を使わずに自由診療を行った方が病院が儲かる分、医者の心証が良くなるといった話を稀に聞きます。
ですが結局のところ目の前の患者が保険診療なのか自由診療なのかで態度を変えることはありません。
「キミは自由診療だから、保険金が多くもらえるように診断書を書いてあげよう」
といったことは無いのです。
素直に健康保険を使っておきましょう。